tattooer and qualification

あるブログで、うちのエントリーに言及して「彫師になるには資格が必要だ」と書いていた。


そのブログから、こちらを参照している人もいるようなので、言っておくが、ここでは「彫師になるには資格が必要だ」とは、一言も書いてない。ここ数年のエステ等、類似業界の動きや、業界に対する公的規制・監督の動きを見ていると、刺青業界でも「将来、資格が必要になる可能性がある」と指摘しただけなので、誤解のないようにお願いしたい。


念のため、改めて書いておくと、
現在は資格も届出も何も必要がない。届出も何もそれ以前に、公には、そういう職業はないことになっているのが現実だ*1


個人的には、何の許可も必要のない今の現状が良いとも思ってないし、かといって、統一的な資格が設けられるのも良いと思っていない。
現状のままでは、彫られる側(顧客)がリスクの大きな部分を背負うことになる。特に何も知らない初心者が負うリスクは大きい。この部分はなんとかする必要があると思う。
一方、公的(あるいは業界統一の)資格制度の創設は、業界内の利害調整が困難で現実的でないと思う。資格制度はお免状を出す家元制と同じで、資格発給者に大きな利益をもたらす。家元の利権をめぐって、業界は騒然とすることになるだろう。仮に業界団体が一本化されて前向きに動き出しても、技術水準の標準化など、難しい課題がある。誰が「彫る」技術レベルを判定して、保証できるのか?針やマシンの安全基準は?また資格制度に切り替える段階で、既存の彫師さんの資格認定はどうするのかという問題も発生する。届出だけで一律認定にするのか、何らかの審査をするのか?
以前、この件について書いたエントリーでは、近年のエステティック業界の動きを参考にしたが、エステ以外にも資格制度化ですったもんだした歴史を持つ業界はある。特に医師法に抵触する業務をやっている業界は、いずれも営業許可や資格認定を制度化する過程で多少はゴタゴタを抱えたことがあるようだ。鍼・灸・按摩師、マッサージ師、指圧師、接骨師などなど...カイロプラクティックにいたっては小泉首相(当時は厚生大臣)まで引っ張り出して公的資格制度創設に向けて、いいところまで行ったのに、業界内紛で頓挫してしまい、いまだに法的に宙ぶらりんな状態だ。
このような理由から、個人的には、有効な落としどころは、資格認定制ではなく、届出による許可制*2という形だと考えている。ただし、届出は彫師ごとに行い、許可における審査項目は、刺青の施術者及び施術場所の「衛生管理面」に限定する。届出先は保健所あたりが妥当だろう。届出時に、衛生管理に関する筆記試験を課すか、定期的に立ち入り検査を行うといったことも考えられる。繰り返しになるが、この許可によって認めるのは、あくまで衛生管理面であって、技術水準や品質ではない。


許可制にするとしても、「刺青は、医療行為である」という医師法上の問題は残る。国としても、刺青業の届出に対して、営業許可を出す以上、合法性があると国民に説明できないと困る。医師法に触れる問題を残したまま、許可制に持ち込むのはやはり無理だろう。
国としては「医師しか、刺青を彫ることはできない」という結論を既に出しているわけだから、刺青業界側が取り得る策としては、刺青を「絶対的医療行為」ではなく、「相対的医療行為」として国に認めてもらい、「医師の指示に基づいて」施術できるという形に何とか持ち込むぐらいしか手はないのかもしれない。さもなければ、冗談ではなく「医師免許がないと彫師になれない」ことになってしまう。
医師の指示の下の施術が認められたとしても、刺青業界は、美容外科や形成外科の病院と提携して営業できるように体制をつくる必要がある。しかし、医師や医療法人側から近寄ってくることはないだろう*3から、すぐには体制づくりは難しい。大多数を占める、経営力に乏しいtatto shopは、病院と提携できずに、地下にもぐって営業するしかなくなるかもしれない。規制によって今以上に刺青業界が地下化してしまったら、それこそ本末転倒だと思う。

*1:法務局と税務署は「刺青業」を認めてくれるらしい。実際に会社化したタトゥーショップがあるからね。税金払う分は認めるってことかょ(笑)

*2:行政法の用語定義では、許可と届出は別物だそうだ。ただし、行政への届出が事実上、許可に近い役割を果たしている場合もある。上記の「届出による許可制」の意味も、「許可に近い効力をもった届出」の意ととってもらいたい。技術基準、資格要件といったもの課した許可にはしたくないので、このような表現した。

*3:医療法人側に営業上のメリットはあまりない。下手をするとイメージダウンになって一般の顧客(無地の人)が離れてしまうかもしれない。