Basel murder case

聖ルチアの皿



落し物の謎


社内で落し物があった。
午前中、6階の女子トイレ洗面台で、腕時計が置き忘れられていた。
その腕時計が、なぜか男物。一瞬、気にはなったけど、いまどきの女子なら、男物の腕時計をするヒトもいるかもなー、、、と、すぐに忘却。だが、午後になって、同じく6階で、トイレが面している廊下で、また腕時計が発見される。今度は、女物のブランド品.....♫


んーーー、女子トイレで、いったい何があったんだ?
各々は、日常的で何気ない出来事なんだけど、それが連続することで、突然違和感がわいてくる。
まるで短編推理小説のオープニング的状況。ここで登場するのは、ポワロじゃなくて、ミス・マープルか、ジェシカおばさんだな。で、この日常的シーンから、殺人事件へと、どう展開するんだ?


ここで問われる妄想力。


トイレで手を洗うとき、時計を外すかというと、男子は、あんまり外してるところは見かけない。女子は、腕時計をブレスレットのように、ゆるーくはめるヒトもいるので、手を洗うとき、じゃまになるから、外すかもしれない。女子トイレの洗面台で見つかった腕時計は男物だったから、メンズサイズのメタルバンドをそのままの長さで使ってたのかも。
そう考えると、なんとなく、持ち主のイメージがわいてくる。背の高いスレンダーな40代の女性。*1 いや、そう考えると、差しさわりのない方向に話が収束しちゃうでしょ。ここは、やっぱり男性が女子トイレに置き忘れたと、考えたい。すると、なぜ男性が、女子トイレに居たのか、なぜ時計を外したのか、手を洗う必要性があったのか、なぜ時計を置き忘れたのに気づかなかったのか、それとも気づいたのに取りに戻れなかったのか、、、と、プロットの補助線が作れそう。


では、廊下で腕時計を落とすか?という問題。
日中、オフィスで腕時計を外す必要があるシーンなんて、あんまりない。でも観察してると、頻繁に外すヒトも、たまにいるな。会議中、必ず外してテーブルの上に置くヒト、プレゼンのとき、腕時計を外して、時間を見ながらしゃべるヒトとか。ただ、女性で、そうするヒトは見かけたことがない。携帯をテーブルに置いて、クロックがわりにするヒトはいるかもしれないけど。
廊下を走ってて、腕時計が腕から抜け落ちる、なんてのもリアリチーないな。抜けたら気づくだろう。抜け落ちたor落としたのに、気づかない状況ってどんなとき?あるいは、気づいてたけど、拾えない状況って??ここは、逆に考えて、ワザと落としたという設定はどう?何かのメッセージを残したかったとか。


ここで、自分自身がすでにトリックにひっかかってることに気がついた。
落し物が発見された順番に、落し物も発生したと、無意識に前提を置いてしまってる。もしかしたら、午後発見された廊下の女性用腕時計が先に落とされたのかもしれない。時系列や順序のトリックって、ミステリの王道だったよな。
腕時計が発見された順番と、落とされた順番が逆だとすると、ストーリーが作りやすくなる。廊下でひと悶着あったあと、女子トイレに誰か入った、、、


そーなると、男性がなぜ女子トイレに入る必要があったかってことだ。
廊下でひと悶着あったのが、何時なのか、というのが、重要なファクターになる。オフィスの廊下で、日中、ひと悶着あったら、いくらなんでも大騒ぎになる*2。とすると、ひと悶着あったのは、やっぱり夜。それも夜中。
うちの会社は、性質上、深夜まで仕事してるヒトが少なくない。この時期、なおさらだし。外部のヒトが勝手に入ってくることも、ない。とくに夜は、セキュリティが昼よりハイになるから。また、他の会社同様、夜は女性が少ない。もともと女性の割合が、極端に低い会社なので、なおさら、夜中まで、働いてる女性は限られる*3
珍しく女性が、夜中、人気のない廊下を歩いていて、何かに巻き込まれた。で、巻き込まれたことを、誰かに伝えたくて、腕時計をこっそり落としたと。巻き込んだのは、男性だとする。もちろん、うちの社員orバイトってことになる。彼は、廊下で出くわした(それとも呼び出した?)女性と、ひと悶着何かしたワケだ。ナニをナニしたのか、わからないが、悶着の後、男性はトイレに行かなくてはならなくなったと。
ただ、生理現象で排泄したくなったのなら、男子トイレに何食わぬ顔をして入ればいいだけなのに、なぜ、わざわざ女子トイレに入ったかだ。やっぱり、姿を誰かに見られたくなかったという線が濃い。夜中とは言え、オフィスの男子トイレに誰か居る可能性は高い。また男子トイレに入ってる間に、誰か入ってくる可能性も高い。逆に、夜の女子トイレが使われる可能性は、ぐっと低い。とすると、頭の切れる(たぶん)彼が、女子トイレを選ぶのは当然。


で、彼はなぜ、女子トイレで腕時計を外して、洗面台に置いたか?
素直に考えると、手を洗いたかったから。でも、わざわざ腕時計を外して手を洗うということは、腕まで洗いたかったのか。腕まで、何かで汚れてしまったから?ヒトに見られたくない状態の汚れといえば、「返り血」がお約束。でも、返り血なら、身体全体に飛んでそうなもんだ。腕だけ、それも左腕が、汚れるような状況って何?


ところで、その間、女性の方は、どうしていたんだろ?
自分のデスクに戻った?それなら、なぜ腕時計を残していったのかわからない。既に殺されてた?それは、ありえない。社員なりバイトなり、誰か殺されたら、翌日には、無断欠勤で、発覚する。社内の女性ではないのか?そうか、うちの社員の男性が、外から女性を連れ込んで、廊下でもみ合ってるうちに、殺してしまったと。左腕に何か、汚れが着いて、洗い落とさざるを得なくなったと。
あれ、いつの間にか殺人事件になってる。
そーなると、死体は、いったいどこにあるんだ。
やっぱり、今も女子トイレに隠してあるってこと?


げ。今晩、トイレ行けない。

*1:25年前の話になるが、金子功さんの奥様にしてミューズ、an・an創刊当時の看板モデルだった金子マリさんが、ゴールド×シルバーのコンビのロレックス・デイトジャストのメンズを、ゆるゆるにして、ブレスレット複数と重ね付けしていた。ロレックスもブレスも互いに傷だらけになるんだけど、それを気にせずジャラジャラさせてるのが「粋」だ、と当時は考えられていた。今考えると、ロレックスでセレブな気分になれた幸せな時代だったのかもなぁ。靴なんか、Dr.マーチンやレッドウィングのポストマン・シューズで、かっこ良しとされてたし。

*2:その昔、うちの会社の廊下でも、白昼、外部の人間が入ってきて、ひと悶着起こし、えらいことになったことがある。今のセキュリティレベルぢゃ考えられないことだけど。

*3:前世紀では、夜中に女性が働くのは違法だった。正確には「夜中に働かせる」だけど。