tattooer&doctor

「彫師になりたいから、医学部受けるぞ〜」なんて時代がくるかも。


3年前、厚生労働省から「医師免許を持たない者が、刺青を人に彫るのは違法!」というお触れ(通達)が出された。

「医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて」

ここで言っている「針先に色素を付け…」はアートメイクのことだが、法律(医師法)では、肌に針することは医者が「医療行為」(註1)としてやる以外は駄目だということになる。実はピアッサーも医者じゃないといかんということらしい。確かによく考えてみると、人の体に傷をつけて血まで流す職業って、彫師やピアッサーの他には医者しかないか。。。


当時は、彫師さんやガッツリ入れたい系の人達の間ではちょっとした話題になった。
刺青の衛生管理や法律問題に取り組む業界団体「彫道会」ができたのもその頃だから、この通達が設立の背景にあったのかもしれない。(未確認だけど、もしかして当局から指導があった?業界団体が作られるのは、たいがい監督官庁の規制がらみのケースが多いから。)
この通達が出て以来、彫師と墨肌人は、「刺青を入れるのは合法だが、彫るのは違法」というよく考えるとよくわからない状態に放り込まれてしまった。。。
その後3年間、彫師が医師法違反(註2)で逮捕されたなんて話はまったくない。でも心配ではあるので、前後関係を含めて、問題を整理してみた。


90年代後半、通販や訪問販売でのトラブル、特に訪問販売法の対象になっていたなっかエステサロン、語学教室、家庭教師、学習塾に関する苦情が激増し、ついに1999年に訪問販売法が改正され、この4業種も規制できることになった。中でもエステ被害が最も多く、法改正後もトラブルは増加を続けていたらしい。そんな状況の中で、医師免許を持たないエステシャンによるレーザー脱毛やアートメイクを禁止する通達が国から全国の市町村や医師会に向けて出されたわけ。


刺青サイドから、この通達を読むとき、3つポイントがある。

  • 彫師を規制するためではなく、悪質エステ業者を摘発するために通達は出された。
  • 施術の失敗など、被害が増加していたのは特にレーザー脱毛の方で、アートメイク自体が問題になっていたわけではない。
  • 悪質エステ業者は、施術の失敗などのトラブルだけでなく、強引な勧誘や怪しげな契約など、その商売のやり方を含めて問題があった。

つまり、アートメイクや刺青を彫ることは法的には間違いなく医療行為なのだが、刺青自体が直接槍玉に上がっていたわけではない。厚生労働省としては、とにかく悪質エステ業者を取り締まることができればよかったのだと思う。
実際、通達が出る前年に警察庁から厚生労働省エステ業者の行為が医師法に触れるかどうか問合せがあった。

「警察庁から厚生労働省への問合せ」


警察としては、悪質エステ業者を取り締まるにあたって、美容業界を仕切る所管官庁である厚生労働省にお墨付きを貰ったというわけ。当時、悪質エステ業者にひかった人達が沢山警察にかけこんでいたんだろう(そういうときに保健所(厚生労働省管轄)に連絡しようと思う人はいないわな)。
まあ、とりあえず問題になっていない刺青業界の方は、放っておこうということなんだと思う。永久脱毛をやる人の数に比べれば、刺青を入れようという人はずっと少ないはずだから、大きな社会問題にはならないということもあるかも。
こう書くと、刺青業界はまだ小さいので、当局から「おめこぼし」していただいているようにも見えるが、実のところ厚生労働省が彫師を取り締まりたいと思っても、取締りようがない。彫師を開業するときには保健所に届出る義務はない(美容院やエステの開業は保健所に届出が必要!)から、役所側ではどこに店があるのかもつかめない。警察の方でも、tattooショップは把握していない(彫師は風俗営業ではないので、警察に届出義務なし)。


でも、おめこぼし状態はいつまでも続くんだろうか。。。
おめこぼし撤回の引き金に一番なりそうなのは、やはり「ウィルス性肝炎」の感染だろう。厚生労働省でも「入れ墨のある人は、早めに肝炎の検査しましょう〜!」とホームページで呼びかけている。
肝炎対策への協力について


いまのところ、「お願い」程度でとまっているが、墨肌人口も、ここ数年で急激に増えている(*3)。針などの衛生管理がいい加減なヤツが彫ったりすれば、刺青は感染拡大ルートとして危険視され、厚生労働省も本腰を入れて監督せざるを得ない。
また中学生に刺青を彫った彫師が逮捕されたといった事件がときどきある(青少年保護育成条例違反)。そんなことが頻発するようになって、社会から問題視されてしまうと、警察も医師法違反を切り札として発動して取り締まるしかなくなるかもしれない。


できれば、まっとうな彫師さんにまで厚生労働省や警察によるあからさまな規制が行われる日は来てほしくない。国による規制が実行されれば、再び戦前のようにまた刺青がアウトローの世界に圧し戻されてしまうだろう。しかも今は戦前に比べて墨肌人口は何倍にもなっている。その人達もまとめてアウトローになってしまったら、逆に役所も規制どころか手が足らなくなるぞ〜!と、ちょっとオドかしておこう。。。


追記0820:
なーんて書いていたら、2006年から、ついにエステシャンの資格認定が始まるらしいっ!!
詳しくは、8月20日の日記で!



註1:「医療行為とは、当該行為を行うにあたり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ、人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある一切の行為を指す(最判昭和30.5.24参照)」
→簡単に言うと「医者じゃない人がやると危ない行為」が医療行為。でも彫師の経験的判断と技術をもってすれば、人体に危害を及ぼすことがないから、彫師が彫ってもOKぢゃないのか?とも思うのだが、そこは難しいようだ。医療行為にも2種類あって、医者しかできない絶対的医療行為と、医者の指示に従って訓練をつんだ人ができる相対的医療行為があるらしい。例えば看護士は医師の指示を受けて注射(静脈注射など)や採血をすることができる(保健婦助産婦看護婦法37条)。今のところ、レーザー脱毛や刺青は医者じゃないとやれない方の医療行為にあたるらしい。
なんとかして刺青を彫ることは、医者以外でもやっていい行為の方にしてもらいたいところだが、その前にまずエステシャンがレーザー脱毛やアートメイクを直接やってもいいとお許しがでないと無理だ。そのときには、たぶん、新しい種類の免許や資格をとること、医者の指示の下でやることといった条件が付くと思うが、このあたりが現実的な落としどころだろう。


註2:医師法第6章罰則題31条「(第17条に違反した者は)二年以下の懲役又は2万円以下の罰金」
彫師が捕まった事件は確認していないが、医者ではないのにアートメイクをやって有罪になった例は2件見つけた。最近では2000年に高槻市エステ業者が懲役1年6ヶ月、執行猶予3年の有罪判決を受けている。(ただし、本件で有罪となった行為には、アートメイク以外に、無許可での歯科診療所開設、医師以外によるレーザー脱毛も含まれている)


註3:一度、推計してみようとしていい方法を思いつかず挫折。でもTattoo雑誌が数種類でるようになったんだから、その分は増えてるはず!