splendor in the USA, glory in the UK

安穂野香の日常



ださいアメリカ、さえないイギリス


6月初にして、すでに頭の中は、秋に着る衣装(コスチューム)計画。
だって素人向けの先行受注会5月から始まってるんだもん。


サラリーマンコスプレの基本方針は「原宿で買って、丸の内で着る」だったのに、ここ2年、「オフィスで着る東京コレクション」という方向にシフト。


この秋冬の東京コレクション・メンズの方向性は、大きく言えば2つ。
米国と英国
その上から「80年代」というフィルターをかけると出来上がり*1


メジャー並み直球の「アメリカ」で来たのが、markaとN.Hollywood。


markaのテーマは、「最もWASPな州」といわれるメイン州”State of Maine"。*2
夏は西海岸とかフロリダって線もあるけど、秋冬は東部が雰囲気だよねー。ブロックチェックのフランネルのブレザーとか、厚手マッキーノ地のライフルマンコートとか。素材がモサモサしてる。ジャケットの形はダーツなしのボックスシルエット(ウェストをしぼってない!)。*3


N.Hollywoodのテーマは、70年代末のカルトコミック”American Splendor"をヒントにした”Daily Life Truth”。
問題なのが、ベースにしている”American Splendor"。2003年に映画化もされてるんだけど、とことんダサい。五大湖に面する地方都市に住む37歳のおっさんの日常をただ、ただ、描くというストーリー。
 詳しくはこちら(必読!)→http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20040501
そのダサダサなアメリカの日常を、ご丁寧にランウェイで再現するというものすごくカルトなコレクション。カルトと言えば、聞こえがいいが、早い話が、一般受けは期待薄。古着好きには受けるかなー。なんか、高円寺でもウロウロしてたら、「あるあるっ」て感じのアイテムばかり。
しかも、すべからくダサ目。実際、「えっ、これがN.Hollywood?」と一瞬思うぐらい、もっさりしたシルエットの服が登場。ニットはオーバーサイズ気味で肩が落ちてるし、デニムもゆったり目。テーラード・スーツでも、ツイードで作った丈長めのダブルのスーツが印象的。細いラペルの3つボタンジャケットも、これまでのN.Hollywoodらしくなくていい感じ。



一方、ブリティッシュな路線で攻めてきてるのが、GalaabenDとWHEREABOUTS、


ガラアーベンドは、映画「女王陛下の007」がテーマ。
小物にガンベルトまで登場させる凝り方。でも、ジェームズ・ボンドより、ぐっとスリム&シャープなスリーピーススーツのオンパレード。裏テーマは「バンコラン *4」に違いない。


ウエラバウツは、ロンドン西部のノッティング・ヒルにあるパブがテーマ。
春夏のアメリカン味は抑えて、ぐっと渋路線。3つボタンのスリーピーススーツとか、ガンクラブチェックのシューティング・ジャケットとか。。。ちょっとさえないコーディネートは、映画「ノッティングヒルの恋人(1999)」のヒュー・グラントの影響?
*5


コレクション・テーマがアメリカだー、イギリスだー、といっても、ただ雰囲気とかテイストのことぢゃなくて、具体的な地名とか、人物とか、時代とか特定できるのが、昨今の傾向。はっきり言えば、かなりコスプレくさい。*6
コスプレでは、ギリギリの「ダサさ」が、とっても大事。「かっこよく」なってしまったら、コスプレにならない。かといってノーシンキングにダサくなってもいけない。あくまでワザとやる「自然なダサさ」でないと。この点では、N.Hollywood2008-2009A/Wは白眉。
非現実な世界を可視化*7するリアルなディテール?非日常的シーンを構成する意図的な日常風景?そーゆーあたりが、醍醐味か。*8

*1:60年代風も目立つけど、モロ60年代というよりも、80年代後半の60年代ブームの匂いがする。デザイナーの世代が、70年代生まれになって、彼らが60年代を初めて知ったのは、ティーンズだった80年代の頃、というのもあるかもな。

*2:メイン州ポートランド出身といえばスティーブン・キング。最初のヒット作「キャリー(1976)」もメイン州チェンバレンが舞台。かつて誰かがコレクションテーマにしていた映画「スタンド・バイ・ミー(1986)」は、映画では舞台はオレゴン州だけど、原作ではメイン州だったりする。

*3:J.Pressとのコラボ・ラインも予定。こっちの方は、遊びを押さえて、すっきり行くらしい。フランネルのブレザーやツイードのジャケットも出るとか。オーセンティック!

*4:パタリロに登場するMI6のエージェント。オールバックのロンゲで、スリーピーススーツにダークシャツを愛用。デザイナーの大川原美樹さん('71年生まれ)、80年代にアニメのパタリロ見てただろ。

*5:コレクションラインではブリティッシュ優勢かな。ブリディッシュミュージック路線で来たのがLad MusicianとIzreel。ラッドミュージシャンは60年代のローリング・ストーンズがテーマ。細ラペルでショート丈の3ボタンジャケットがメインなんだけど、なんと「肩が落ちている」。びみょーにオーバーサイズ気味。Izreelは、タータンチェックでパンクなボンデージパンツ。早くも、もうリバイバルさせるかっ!いやラフォーレ原宿っぽくていいか。。。FACTOTUMは、アイスランドのポストロックバンド"Sigur Rosシガー・ロス)"がテーマ。大西洋上だけに、アメリカのような、イギリスのような、どっちかよくわからなくしているあたりが旨い。John Lawrence Sullivanは、ブリティッシュテーラード・スーツにバブル崩壊期を掛け算。切り口の設定が上手いなぁ。。。ドハデなスクールストライプのスーツとか。United Future Organizaitionとか思い出したょ。

*6:逆に言えば、東京コレクションって、ものすごくリアルクローズなんだとも言えるのかもしれない。つーことは、コレクションとしてのテーマの置き方が難しい面もある。コンセプチュアル過ぎだとダメで、適度にリアルなライフ・シーンを想起させるぐらいの、今の時代、今の社会との距離のとり方。。。なんて評論家じみた分析で、やな感じだな。

*7:バカにでもわかるようにすること

*8:「大風呂敷な企画のときほど、ディテールは日常に落とし込め。」は、プランナーの基本。