native or inked

刺青を勧めるのは簡単だが、止めるのは難しい。


以前読んだ「自分の顔が許せない! (平凡社新書)」で石川政之が気になることを言っていた。
世間は、生まれつきあざのある人には「手術で治せばいいのに。なんでさっさと治さないの?」と言い、美容整形手術した人には「親からもらった身体に手を加えるなんて…」と言う。石井はこれに対して「ありのままの肉体がすばらしいと答える人は、ありのままの先天異常も認めなければならない」と書いている。上手いとこ突くなー。
親からもらった身体に手を加えるなんてダメだと思っている人も、毎朝、化粧をしたり、スーツに身を固めて、武装する。それは最低限の身だしなみで、周りへの配慮だという反論もできる。でも、もしそう思うなら、生身の姿は、人の目に触れさせては失礼なものだと認めるようなものだ。
生まれつきの姿がいちばんといいつつも、誰も生まれついての自分の身体に満足していないんじゃないか。もし、ほとんどの人が満足しているなら、美容産業はここまで巨大化しない。自然がいちばんといいつつも、老化という自然の成行きには必死で抗おうとする。アンチエイジングというビジネスまで生み出して。。。


身体改造に対して否定的なイメージは根強く今も存在しているから、身体改造する人を止めようとするのはよくわかる。多少おせっかいだなーと感じることもあるけど、心配してくれての発言だと思いたい。
でも論語だか聖書だか、自分でも普段は思い出しもしない故事まで引き合いに出して、「ありのままの身体が一番」とか「親にもらったものなのに」とか言ってもらいたくない。まだ頭ごなしに怒鳴りつけるほうが、親身な感じがする。
ただ、頭ごなしに否定するだけなら、警察のDrug禁止標語と同じだ。「ダメ、絶対ダメっ!」って、ちゃんと理由を言ってやれよ。。。もしその人のために心底止めたいと思っているなら、彼らの価値観でも理解できる説得を考えないと。
身体改造した後のリスクの大きさを示すのも手だが、身体改造したことがない人には「たぶん大きなリスク」というイメージしかなくて、リアルな危険はわからない。故に、言っても危機感も説得力がないだろう。「温泉は入れなくなるよ」と言っても、「温泉は興味ない」と言い返されるだけ。「銭湯行けなくなるよ」なんて言っても、いまどき「風呂なしのアパート」を見つける方が難しい。
未改造の人が語っても現実感のある説得の言葉は、「タブーを破れば、君をもう守ってやれない」ということだけだと思う。誰かを止めたいなら、もっとキツク、「タブーを破ったら、お前はもう仲間ではない」と言ってやったほうがいい。
身体改造したい人はそれがイイと思ってしまったんだから、身体改造がイイとかワルイとかで説得しようとしても平行線に終るだけだ。未改造の人が彼らに言わなければいけないことは、善し悪しに関係なく、姿かたちを変えるということは、家族や友人関係も含めた今いる社会からは追い出されるということだ*1。この程度の説得では身体改造欲求を抑止できないかもしれないが、今ともにいる仲間や家族にどれだけ支えられているか、支えられなくても生きていけるのか、その辺を一度考えておくことは大切だと思う。


なんて、堅めに書いてしまいましたが、
↓この手の質問をネット上でよく見かけるんだけど、回答がいまひとつなので、ついつい考えてしまいました。
息子が刺青入れるのを止めたい母
でも、この母親、単に自分と自分の息子の自慢したかっただけという感じがプンプン。この手の自慢したいがための質問、はてなでもあるよな。。。

*1:これを中村うさぎは「肉体が違うと文化が違う」と表現していた。